Sam Amidon(サム・アミドン)
現代フォーク&ルーツ音楽シーンで最も注目を集めるミュージシャンのひとりで、ギター、フィドル、バンジョーなどマルチな弦楽器奏者兼ボーカリスト/シンガーソングライターとして知られるサム・アミドンはアメリカ・ヴァーモント州出身(現在はイギリス在住)。
両親のピーターとメアリー・アリスの夫婦は共にフォーク・ミュージシャンで、サム自身も3歳からフィドルを始め、アイリッシュやアパラチアン・フォークなどの伝統音楽を生活のなかで吸収し、家族グループで幼い頃から演奏活動を重ねていたという。
20歳のときに最初のレコーディング作品は2001年リリースのフィドル作品『Solo Fiddle』をリリースし、その後も幾つかのインディー・レーベルからフォーク作品を発表しているが、ビョークなどの仕事で知られるアイスランド人プロデューサー・ヴァルゲイル・シグルズソンと手掛けたフォークスタンダード集『All Is Well』(2007)と『I See The Sign』(2010)は高い評価を受けた。
サムが世界的に注目を浴びるようになった切っ掛けは、アメリカーナ音楽の総本山といえる名門レーベル・ノンサッチから2013年『Bright Sunny South』をリリースしてからだろう。本作はトラッド・ロック作品の名盤を手掛けたエンジニアのジェリー・ボーイズを招いて作られたサウンド面でも洗練された作品で、楽曲の多くは現代的な演奏で再解釈されたトラディショナルソングで構成されているが、なかにはマライア・キャリーの楽曲を脱力感溢れるヴァージョンなども収録しており意外性も覗かせる。
続く『Lily-O』では再びシグルズソンとタッグを組みビル・フリゼールがゲスト参加したことでも話題になった。古い民謡のカバー曲が圧倒的に多い彼の作品だが『The Following Mountain』(2017)はほぼオリジナル楽曲で構成されドラマーにミルフォード・グレイヴス、ジミ・ヘンドリックスのパーカッションメンバー、ジュマ・サルタン、サックスにサム・ゲンデルら演奏陣が加わり、ソングライターとしても新たな一歩を築いた1枚だ。
2020年にリリースされた『SAM AMIDON』では、再びトラディショナル楽曲とシャザード・イズマイリーとクリス・ヴァタラロと長年プレイしてきたメンバーとバート・クールス(ギター)、サム・ゲンデル(サックス)、ルース・グラー(ベース)、さらにはゲストボーカルとして妻でシンガーソングライターのベウス・オートンなどゆかりのミュージシャンを総動員。演奏の即興性や演奏者の化学反応などより偶然性と音の融合を追求したアプローチで多方面からも賞賛を受けた。
アルバム作品とは別軸でライヴでの広がりにも注目したい。アミドンはコラボレーションで常に新しい可能性を見出すミュージシャンだ。2022年の「Festival de Frue」で日本人メンバーとの”ウィズ ストリングカルテット”での名演、そして角銅真実とのコラボ・セッションは彼女の最新作『Contact』収録曲「外は小雨」での共演にも発展した。
2024年に入りケルティック・コネクションでアパラチアン・デュオのタチアナ・ハーグリーヴスとアリソン・デ・グルートとの共演、サム・ゲンデル&サム・ウィルクスとのいわゆる「Sam+Sam+Sam」や、2人のバンドで演奏するトム・ギル&フィリップ・メランソンとのトリオなどアミドンはファン垂涎のライヴ活動を展開してきたが、そこに今度の「Festival de Frue」で、メデスキ、マーティン・アンド・ウッドのドラマーにして最強のインプロヴァイザー”ビリー・マーティン”との初共演が加わる。脳内シミュレーション不可、かつ楽しみが過ぎる座組み。絶対に思惑通りにはいかないであろう未知の組み合わせ、FRUEプレミアかつ世界プレミアにご期待あれ。
text by Hideki Hayasaka
Billy Martin(ビリー・マーティン)
世界屈指のパーカッション奏者/インプロヴァィザーの1人、ビリー・マーティンは1963年ニューヨーク出身。メデスキ、マーティン&ウッド(MMW)のドラム/パーカッション奏者としての活動で広く知られているが、ビリー個人としての即興演奏家の側面、または幅広い交友によるコラボレーション、映画音楽のスコアに代表される作曲家、画家、フィルムメーカーなど活動はアート全般に及ぶ。
ブロードウェイからブラジリアンナイトクラブ、アンダーグランドの音楽シーンなどマンハッタンの多様性溢れる音楽からの影響と、ニューヨーク・ダウンタウンの地下ジャズシーンで磨いた素養と共に80年代に、ザ・ラウンジリザーズやジョン・ゾーンの作品やライブなどにパーカッション奏者として頭角を現し、90年代に突入するとNYのダウンタウンシーンの影響下から世界屈指の即興トリオ、MMWを結成する。
ピリー・マーティンの演奏スタイルについては、古典的なR&Bやファンク、ラテン、ジャズの要素に加え、リズムマシンを彷彿とさせるタイム感が、唯一無二ともいえるグルーヴ感を生み出している。またパーカッション奏者として、多種多様なリズム楽器やオモチャの類までをリズム楽器として成立させる無尽蔵なアイディアと知的なユーモアを交えたプレイは、オーディエンスの好奇心を常に刺激する。
2018年から2020年にかけてビリーは次々と新作を発表してきた。ウィリアム・マーティンとのデュオ作『Disappearing』(2018)、ダウンタウンのNYアーティストで構成されたオーケストラとソロパーカッションによる作品『Meshes』(2019)、ほぼ1人で手がけたリズムとベースリフによるバンドアンサンブルにマーク・リボー、ジョン・メデスキらのゲスト陣のソロ伴奏を盛り込んだ『GUILTY』(2020)と立て続けにリズムを主体にしつつ、どれも全くアプローチが異なる作品、また新たにネットフリックス作品『La Gran Seduccion』のサウンドトラックの発表も控えている。
「Festival de Frue」でのビリーといえば2018年のilly B's Organism Sessionと、番外編のサプライズというには凄すぎたヤマンドゥ・コスタとの奇蹟のセッションがいまだに語り草となっているが、2024年はサム・アミドンとのデュオに加え、DJオリーブ&アマーロ・フレイタスとの”奇蹟のセッションパート2”がアナウンスされた。間違いなく”歴史”となる瞬間を見逃すなかれ!
text by Hideki Hayasaka