昨年の「Festival de FRUE 2023」でソロパフォーマンスでオーディエンスを魅了したシンガーソングライター/フロントマンのチン・ベルナルデスを中心に、ベーシストのギレルメ・ダルメイダ、ドラマーのガブリエル・バジルからなるブラジル・サンパウロ出身のトリオ=オ・テルノ。サイケデリック・ロック、トロピカリア、インディ・ポップの要素を融合したユニークな解釈と、愛、実存主義、ブラジル文化などにフォーカスした思慮深い歌詞で、ブラジルの現代音楽シーンで最も著名かつ象徴的なバンドのひとつとなった。
2009年結成。ムタンチスやビートルズ、キンクスのカヴァーなどを出発点に発展したグループは2012年に自主制作したサイケデリック・ロック作『66』で、ブラジル音楽のレガシーと現代のインディ・ロックを融合したユニークか緻密な音楽性で一躍注目を集めブラジルの音楽シーンで幾つかのアウォードを獲得。2014年のセルフタイトルの『O Terno』、2016年『Melhor do Wue Parece』、2019年には近年深まるチンのオーケストラ志向を深めた傑作アルバム『Atrás/Além』を発表、収録曲「Volta e Meia」での坂本慎太郎とデヴェンドラ・バンハートの参加が話題となった。
2017年チンの初ソロ作「Recomeçar」がリリースされ際には日本でも「ブライアン・ウィルソン meets カエターノ・ヴェローゾ」といキャッチコピーがファンの間でも興味を呼び起こしたが、その源流となるものがオ・テルノのサウンドには集約されている。各々の活発な活動やライフステージの変化のなかでトリオは4年間の空白期間から重い腰をあげてツアーを復活させた。今回のライヴ復活も極めて限定的で、その後の活動も「極めて不透明である」と明言している。
「みんな一緒の場所にいて、一緒に暮らして、一緒に起きて、一緒に朝食を食べると、みんなにリズムがあって、起きる時間があることが分かってくる。みんな違う時間にお腹が空くんだ...。そうすることで、バンドをアメーバのような大きな集団にすることができる。大きな生態系になるんだ」
この言葉どおり3人の周波がバッチリ合致したタイミングで実現するFRUEでのトリオのライヴ・パフォーマンスは極めて幸運かつレアな体験になることは確かだ。
text by Hideki Hayasaka