Angel Bat Dawid

エンジェル・バット・ダウィッド

サン・ラと交信できる新たな代理人か?はたまたフリー・ジャズ/スピリチュアル・ジャズの最新の代弁者か? 即興演奏家、クラリネット奏者、ピアニスト、ヴォーカリスト、教育者、DJなど多彩な顔を持つエンジェル・バット・ダウィッドの活動はひと言では語り尽くせないほど多岐に渡る。

両親ともに宣教師の家に生まれたエンジェルは、ムーディ聖書学院でクラリネットを専攻し、ルーズベルト大学で音楽教育の道に進むが、脳腫瘍を患い医療費捻出のためにフルタイムの仕事で生計を立てる傍らプロデュース業や、ヒップホッププロジェクトなどに参加、シカゴでクリエイティブ音楽集団”Participatory Music Coalition”の設立にも関わった。

最初に脚光を浴びたのは、2019年シカゴのインターナショナル・アンセムからリリースしたデビューアルバム『The Oracle』だ。スマートフォンで移動しながら録音した本作はアメリカのメディアPitchforkに "活気に満ちたスピリチュアル作品、今日のブラックライフのフリー・ジャズ・ドキュメント"と称賛された。

この作品を皮切りにエンジェルは、バンドリーダー/パフォーマーの両面で才能を拡大していく。同年ハイドパーク・ジャズ・フェスティバルで12楽章からなる現在版スピリチュアル「Requiem for Jazz」を披露、このプロジェクトは2023年にライヴ盤でもリリースされ、サン・ラー・アーケストラのマーシャル・アレンとクノール・スコットが参加したことでも話題になった。

その他にもオノ・ヨーコの屋外インスタレーション「スカイランディング」のためにシカゴ美術館から委嘱され組曲を作曲したり、アンサンブル "Tha Brothahood "を率いたフォーマットではゴスペルとポエトリーリーディング、即興が混在した壮大なコンセプトを提示。

女性だけのアンサンブル”シスターズ・オブ・ザ・ニッティ・グリッティ”、サウンド・アーティストのウイ・エヌイとのデュオ・DAOUI、さらにはデイモン・ロック率いるブラック・モニュメント・アンサンブルのメンバーと演奏者としての活動でも範囲を広げている。

音楽教育の世界ではクック郡の少年一時拘置所で「グレート・ブラック・ミュージック」コースを教える教育者としても教鞭をふるい、ロンドンのNTSラジオで毎月ホストを務めるDJなど全方位の活躍を続けている。

text by Hideki Hayasaka